開発秘話

ターニングポイントは
2018年の西日本豪雨

被災地のトイレ環境を少しでも良いものに!という想いから、『自動ラップ式トイレ ラップポン』シリーズを携えて2007年の能登半島地震を皮切りに全国の被災地でトイレ支援を続けてきた日本セイフティー株式会社。当初は地域の指定避難所や老人ホームなど多くの方が集まる場所をメインにラップポンシリーズを設置していたのですが、2018年にターニングポイントのひとつとなる災害が発生します。

それは2018年7月の西日本豪雨。広島市安芸区でのことでした。大雨により大きな被害を受けた安芸区のとある集落へのトイレ支援の要請が入ったのですが、これまでとは状況が異なるとのこと。土砂や倒木などで道が寸断されてしまい孤立している集落があり、そこでは住宅の損壊は免れたが避難所に行けない住民たちがライフラインの寸断された自宅で避難生活を送っているというのです。住民たちは給水車が到着できる地点まで徒歩で行かなければならないため、生活用水を入れた重たいポリタンクなどをいくつも抱えて、唯一人が歩いて通れる状態だった80段もある急な石段を毎日何度も上り下りしていました。そのような生活が続き、皆が肉体的にも精神的にも疲弊してしまっていたのです。この集落の各家庭に、水のいらないトイレであるラップポンシリーズを設置しましたが、これまでの被災地での支援経験から『被災者は皆避難所にいる=安全で快適なラップポンが必要なのは避難所』の視点だけだった概念が、『被災者は避難所だけでなく自宅に留まる場合もある=自宅にも安全で快適なラップポンのようなトイレが必要』というものに変わりました。

そして新型コロナウイルス感染症

自宅で安全快適なラップポン…と必要性を認識しながらも、そのアイデアを形に出来ず試行錯誤を重ねていた2020年上旬。未曽有の事態が世界中を襲います。現在も感染拡大が続く新型コロナウイルス感染症です。この事態はこれまでの日本の災害時の常識を大きく変えてしまいました。都市部などでは以前から人口集中に伴う避難所の収容人数不足が課題となっていましたが(実際に2019年9月の台風19号上陸時に都市部で避難所定員が満員となり別の避難所への移動を余儀なくされたケースがありました)、それに加えてソーシャルディスタンスをとることや発熱等の体調不良者は健康な人とは滞在スペースを分けることなど、これまで以上に一人当たりのスペースを広くとらなければならなくなりました。そのため、ただでさえ不足していた避難所の収容人数が更に1/3程度に減ってしまったのです。運よく避難所へ入所できたとしても、多くの人が集まる場所では感染症のリスクがつきまといます。

避難所に行くことが出来なければ、どうしたらいいのでしょうか。ホテルなどの宿泊施設を避難所として使用する人も増えて来ていますが、国や各自治体は自宅に大きな損傷がなく地域にも危険が迫っていない場合はライフラインが止まっていたとしても住み慣れた自宅で生活をする『在宅避難』を推奨し始めました。自宅で過ごすなんて簡単だと考えるかもしれませんが、在宅避難をするためには【家族が最低3日分(最大2週間)過ごせるくらいの食糧や生活用品が備えてあること】が必要なのです。

このことを知った時、西日本豪雨での経験を思い出しました。「大規模災害が発生したら、自宅に留まる人たちが増える。安全に在宅避難をするには、自宅にも安全で快適なラップポンのようなトイレが必要だ。災害が起こる前に各家庭に備えてもらわなければ…必要なのは、今だ!」

そこから在宅避難用のラップポンの開発に持てる力の全てが注がれました。これまでプロユース製品の開発経験しかありませんでしたが、家庭向け製品となるとすべての人に対して分かりやすく安心・快適に使用出来る製品でなければならず、あらゆる生活シーンを想定した設計が必要でした。最も開発メンバーを悩ませたのは、避難所で使用していたラップポンのコンセプト…①自動ラップ機能で手を汚さずに排泄物を処理できる②排泄物の臭いと菌を漏らさない③個別に密封個包装することで衛生的 を維持しながら、デメリット…①重くて移動が大変 ②使用後の保管に大きなスペースが必要 ③コストが高い(汚物袋など含めると10~20万程度)をどうやって実現するのか?ということでした。

手動ラップ式
簡易トイレの誕生

コストを落とすために自動ラップ機構を手動式にすることは必須事項でした。ボタン一つで簡単に処理が出来ていた自動式機構を、簡単なレバー操作で手動式にすることを考え付きました。年齢や性別に関係なく誰でも同じように処理が出来るように、レバーを引いた後に90°垂直方向に持ち上げ、少ない力でしっかり汚物袋を挟んで熱圧着し密封出来るような機構が完成しましたが、この機構を活かすためには汚物袋のセット方法が大きな課題でした。
これまでのラップポンシリーズは一度汚物袋をセットすると連続して50回分使用出来ましたが、この仕組みを手動式でも使おうとすると部品の数が多くなってしまいます。部品が多いと、それだけトラブルが起こるリスクが高まります。そこで、少しでも部品とトラブルの可能性を減らすため、1回毎に汚物袋をセットする方法を採用しました。『安心・快適』をキープしつつ、使用時に手を煩わせたり密封効果の品質が低下しないように、①フィルムをワンタッチでセット出来る②フィルムをきれいに折りたたんで熱圧着できる(特許出願)③素材に臭いも菌も漏らさない『驚異の防臭素材BOS』を採用 の3点にこだわった汚物袋が完成しました。

また、トイレ本体の素材をどうするか?ということにも時間を費やしました。軽くて丈夫なのに安価という基準を満たすものは何かを探し、作ってはテストする、を重ね…プラスチックダンボールにたどり着きました。たった400gほどの重さなのに耐荷重は100kgを優に超えます。加工もしやすく、まさにうってつけの素材でした。色も沢山の中から、暗い場所でも良く見える明るいオレンジと、シンプルで空間になじむベージュの2色を選びました。

最後に…【在宅避難という言葉をより身近に考えてほしい】という想いから、愛称を”おうち避難トイレ”に。そして【このトイレはきっと日本の在宅避難を変える!】という願いを込めて“Stay Home”(おうちにいよう)の頭文字を取って製品名を『ラップポン SH-1』と名付けました。

こうして出来上がった“おうち避難トイレ”『ラップポンSH-1』。自信をもって、あなたのおうちにお届けします。